個人事業主が押さえておきたい医療費控除の制度とは|申請手続きの流れも紹介
「確定申告で医療費控除の申請をしたい」
「医療費控除の要件や対象範囲が分からない」
「医療費控除と還付金の関係って何?」
個人事業主が確定申告を行うことで様々な所得控除を受けることができ、その中の1つに「医療費控除」があります。しかしながら、実際に医療費控除の申請を行なおうとした際に、多くの疑問や悩みを抱えてしまう人もいるのではないでしょうか。
本記事では、はじめに医療費控除の基礎知識(概要や適用要件、控除の対象範囲)について紹介し、次に医療費控除の計算方法や計算例について解説します。終わりに、医療費控除の申請手続きの流れや、医療費控除申請後の「還付金」などについてみていきます。
本記事を読むことで医療費控除に関する知識を身に付けることができ、確定申告の際にスムーズな医療費控除の申請を行うことができるでしょう。
医療費控除について詳しく知りたい方は、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
目次
医療費控除とは?
医療費控除とは、納税者が医療費を一定額以上支払った場合において、その医療費の額を基に算出される金額の所得控除を受けることをいいます。
医療費控除の対象になる場合には、確定申告を行うことで還付金を受取れるようになります。そのため、確定申告の際に「医療費控除の明細書」を所得税の確定申告書に添付し、所轄の税務署に提出してください。
出典:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
医療費控除の対象となる要件
医療費控除を受けるためには、定められた要件を満たす必要があります。まず、適用される対象は、納税者本人と、納税者と「生計を一にする」配偶者や子ども、またその他の親族になります。
つまり、一緒に暮らしていない場合でも「生計を一」にしていれば、その家族や親族のために支払った医療費は控除の対象となるのです。
そして、医療費控除の適用期間は、その年の1月1日から12月31日までになります。この期間内に支払った医療費に対して控除が受けられ、適用を受ける年の12月31日時点で医療費が支払われていないものについては、翌年の控除対象となることに注意が必要です。
出典:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
医療費控除の対象になる金額は?
医療費控除は、医療費すべてに対してではありません。医療費控除の対象金額は、1年間に支払った医療費のうち10万円(総所得金額等が200万円未満の場合、総所得金額等の5%金額)を超えた部分です。
この総所得金額等とは、総合・分離所得に関わらずすべての所得の合計金額から、純損失あるいは雑損失等の繰越控除を適用した後の金額のことをいいます。
また、医療費控除で控除される金額には上限が設けられており、最高で200万円までになります。
出典:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
出典:合計所得金額、総所得金額、総所得金額等の違いについて|大阪府富田林市
どんな費用が医療費控除の対象になる?
確定申告の際に、医療費控除の対象となるものが分からないと悩んでしまう人もいるのではないでしょうか。たとえば、病院までの交通費は、マイカーの場合と公共交通機関を利用した場合とでは、控除の対象になるかが分かれてしまうのです。
以下では、医療費控除の対象になるものと対象にならないものを、具体例を挙げながら紹介していきます。ぜひ、参考にしてみてください。
控除の対象になる医療費
医療費控除の対象となるのは、基本的に病気の治療等に必要となった費用や薬代などです。
具体例としては、以下のものが挙げられます。
・医師あるいは歯科医師による診療や治療の対価
・治療あるいは療養に必要な医薬品の購入費
・病院、介護老人保健施設、指定地域密着型介護老人福祉施設、助産所などへ搬送・収容されるための労働の対価
・あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術費
・保健師や看護師、准看護師等による療養上の世話の費用
・助産師による分娩介助の費用
また、近年の新型コロナウイルス関連にも対応しており、医師の判断によって行ったPCR検査の費用やオンライン診療なども医療費控除の対象に含まれます。これらの他にも対象となるものがあるため、事前に確認しておくとよいでしょう。
控除の対象にならない医療費
前述では、「病気の治療等」に必要になったものは医療費控除の対象となると紹介しましたが、それはあくまで「基本的」であることに注意してください。
医療や治療に関係するすべての費用が医療費控除の対象とはならないためです。たとえば、美容整形代、健康増進を目的としたビタミン剤や器具などの購入費用、また自己都合による入院時の差額ベット代などが挙げられます。
この他にも、健康診断費用や近視や遠視による眼鏡やコンタクトレンズの購入費用も、医療費控除の対象には含まれません。
治療目的以外でも医療費控除の対象になるケース
医療費控除では、一定の目的や理由によって病気の治療目的以外でも対象に含まれることがあります。
以下で、対象になるケースを紹介します。医療費控除の対象範囲を正しく知り、上手に活用していきましょう。
介護サービスやおむつ代
医療費控除の対象には、介護保険サービスや介護に必要なおむつ代も含まれます。具体的には、以下の通りです。
介護保険等制度で提供された一定の施設・居住の利用、また日常生活の世話や看護・医学的管理下での療養上の世話といった介護保険サービスの自己負担額、さらに介護に必要なおむつ代になります。
ですが、おむつ代は医師等が「おむつ使用証明書」を発行している場合のみ対象となります。
出典:No.1127 医療費控除の対象となる介護保険制度下での居宅サービス等の対価|国税庁
妊娠・出産にかかる費用
妊娠や出産にかかる費用についても、一定の場合において対象となります。具体的には、以下の通りです。
・妊娠時の定期健診や検査の費用や通院費用
・病院などで出産の際に、公共交通機関の利用が困難でタクシーを使用した場合の代金
・入院中の食事代
ただし、妊娠・出産の費用を医療費控除に上げる場合には、いくつかの注意点があります。たとえば、健康保険組合等から「出産育児一時金」や「家族出産育児一時金」などが支給された場合には、その金額をかかった医療費から差し引く必要があります。
一方で、出産の前後で一定期間仕事ができなくなったことによって給付される「出産手当金」は、医療費控除の計算を行う際にはその金額を差し引く必要はありません。
これらの注意点を踏まえて、妊娠・出産の費用の医療費控除の申請を行なってください。
出典:No.1124 医療費控除の対象となる出産費用の具体例|国税庁
通院のための交通費
医療費控除の対象には、医師などからの診療を受けるための交通費も含まれます。しかしながら、公共交通機関では利用を証明するための領収書が発行されないケースも少なくありません。
領収書が発行されない場合には、利用した日付や交通機関名、支払った交通費、また通院先の病院名を家計簿に記録しておきましょう。確定申告で医療費控除の申請を行う際に、通院にかかった交通費の合計金額を提出する明細書に記載してください。
ただし、自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車場代は対象にならないため、交通費を計算するときには注意が必要です。
医療費控除を計算するための流れ
医療費控除を受けるためには、確定申告で所轄の税務署に明細書を提出する必要があります。そのため、医療費控除の計算方法を理解しておくことが大切です。
以下では、医療費控除の計算方法の大まかな流れを紹介していきます。
年間の医療費の合計を算出する
まず、1年間にかかった医療費の合計を計算する必要があります。前述したように、1年間とは医療費控除を受ける年の1月1日~12月31日までになることに留意してください。
1年間に、生計を一にする納税者本人、納税者の子どもや配偶者などの家族全員分の医療費の合計を算出しましょう。このとき、領収書や記録した家計簿を基に計算するため、領収書などの保管はしっかりと行なってください。
出典:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
保険金などで補てんされる金額を計算する
1年間に支払った医療費の合計が算出できたら、次は保険金などで補てんされる金額を求めましょう。保険金などは、算出対象の期間内に受け取った生命保険・損害保険の保険金や、出産一時金、また高額医療費などです。
保険金などで補てんされる金額を、前述した1年間の医療費の合計から引きます。この引かれた金額が「実際にかかった医療費」となるのです。
出典:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
実際に支払った医療費から一定額を差し引く
最後に「実際に支払った医療費」から一定の金額を差し引きます。この一定額は、多くの場合で10万円になりますが、医療費控除を受ける年の総所得金額等が200万円未満の人は、その総所得金額等の5%の額になります。
「実際に支払った医療費」から上記の一定額を差し引いても医療費が残った場合、その残額が医療費控除の対象となるのです。
また、医療費控除の大まかな計算式は、下記の通りです。医療費控除を申請する際には必要となる式のため、理解しておきましょう。
医療費控除 = (1年間、支払った医療費の合計額 ー 保険金等で補填される金額) ー (10万円(総所得金額等が200万円未満の人は、その総所得金額等の5%金額))
出典:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
医療費控除の計算例
ここまでに、医療費控除の適用要件や対象範囲、また計算方法について紹介してきました。以下では紹介してきたことを踏まえながら、実際の医療費控除の計算例をみていきましょう。
計算例としては、前述した控除額計算のボーダーラインとなる総所得金額等が「200万円以上」と「200万円未満」の2パターンを挙げます。
まず、総所得金額等が「500万円」の場合、1年間支払った医療費の合計が20万円で医療保険の給付金が5万円のとき、医療費控除額は5万円になります。
そして、総所得金額等が「160万円」の場合、1年間支払った医療費の合計が20万円で医療保険の給付金が5万円のとき、医療費控除額は7万円になります。
2つのパターンにおける医療費控除額の差は、「実際にかかった医療費」から差し引かれる控除額が、10万円か総所得金額等の5%の金額になるかの違いによるものです。
医療費控除の申請前に準備するもの
医療費控除の申請を行う際には、事前に準備しておくものがいくつかあります。必要書類に不備があったり揃っていなかったりすると正しく申請が行えないため、以下でしっかりと確認しておきましょう。
確定申告書AまたはB
まず、必要となる書類の1つが「確定申告書A」あるいは「確定申告書B」です。実は確定申告書には、このAとBの2種類があります。
「確定申告書A」では申告する所得がサラリーマン、パートやアルバイトなどによる給与所得、公的年金、雑所得、総合課税の配当所得、あるいは一時所得を得ている人で、さらに予定納税がない場合に使用できます。
この予定納税とは、前年度の所得税額などから算出した「予定納税基準額」が一定金額(15万円)を超えた人が対象になり、その年の所得税の一部をあらかじめ納める制度のことです。予定納税の対象者には事前に税務署から通知書が送られてくるため、確認しておくようにしましょう。
一方で「確定申告書B」は汎用版のため、「確定申告書A」の対象者を含めすべての人が使用可能です。個人事業主は、「確定申告書B」を使うようにしてください。
また、確定申告書には「A」と「B」がありますが、2023年(令和5年)1月から「確定申告書A」が廃止され、「確定申告書B」に統一されることにも注意しておきましょう。
出典:令和3年分所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き|国税庁(PDF)
医療費控除の明細書
医療費控除の適用を受けるためには、医療費控除の明細書を作成する必要があります。また、国税庁ホームページから、確定申告書とともに医療費控除の明細書も作成することが可能です。作成の際には、ぜひチェックしてみてください。
医療費通知書
医療費控除の申請の際には、上述の医療費控除の明細書を提出する必要がありますが「医療費通知書」を活用することで明細書の作成を簡略化することが可能です。
「医療費通知書」とは、医療保険者が発行する医療費の金額などを知らせる書類のことをいいます。
この通知書には、以下のすべての事項が記載あるものを指しています。
・被保険者等の氏名
・療養を受けた年月
・療養者
・療養を受けた病院や診療所、また薬局などの名称
・被保険者等が支払った医療費の金額
・保険者等の名称
また、医療費通知書は確定申告期限の翌日から起算して5年が経過するまでは、税務署から通知書の提示あるいは提出を求められる可能性があります。そのため、医療費通知書はしっかりと保管しておくようにしましょう。
出典:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
本人確認ができる書類
個人事業主が医療費控除の申請を行う際には、本人確認ができる書類も用意しておきましょう。本人確認書類とは、「マイナンバーカード」あるいは、通知カードやマイナンバーが記載されている住民票の写しなどの「番号確認書類」と「身元確認書類」のことをいいます。
これら2種類で本人確認を行う場合には、それぞれ一つずつ準備してください。また、「身元確認書類」に該当するものには、以下のものが挙げられます。
・運転免許証
・公的医療保険の被保険者証
・パスポート
・身体障碍者手帳
・在留カード
・税務署から送付された「確定申告のお知らせ」はがき
医療費控除の申請手続きの流れ
ここまでに、医療費控除の概要や適用要件、また控除額の計算方法などについて紹介してきました。
以下では、実際に個人事業主が医療費控除の申請手続きを行う際の流れを紹介します。これまでに紹介してきた内容を踏まえながら、確認していきましょう。
年間にかかった医療費から控除の対象になる項目を確認する
個人事業主が、実際に確定申告で医療費控除の申請を行うときには、はじめに1年間に支払った医療費のうち控除の対象となる項目を確認していきましょう。
前述した通り、対象となるのは病気の治療に必要となる費用や薬代などです。しかしながら、妊娠・出産や介護保険サービスなどといった治療目的以外も控除の対象に含まれるため、支払った医療費については、1つずつ対象になるのかをチェックしておくことが大切になります。
出典:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
控除額を算出する
医療費控除の対象になる項目が分かったら、次は控除額を求めていきましょう。計算式は、以下の通りになります。
医療費控除額=(控除を受ける年に支払った医療費の合計 ー 保険などで補てんされる金額) ー 10万円(総所得金額等が200万円未満の場合、その金額等の5%の金額)
注意点としては、算出された控除額は「実際に還付される金額ではない」ということです。医療費控除の申請を行ない、個人事業主に還付される金額については後述の「還付金を受取る」でみていきます。
出典:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
確定申告書と医療費控除の明細書に必要事項を記入する
医療費控除額が算出できたら、提出する医療費控除の明細書や確定申告書に必要事項を漏れなく記入していきましょう。
また、国税庁ホームページから医療費控除の明細書や確定申告書をダウンロードできるため、所轄の税務署が遠い場合には活用してみてください。
税務署に書類を提出する
医療費控除の明細書と確定申告書への記入が完了したら、最後に所轄の税務署に提出しましょう。このとき、明細書と確定申告書以外にも、医療通知書など申請に必要な書類があります。忘れずに、必ず持参してください。
還付金を受け取る
確定申告で医療費控除の申請が完了したら、約1か月~1か月半後に指定の銀行口座に振り込まれます。また、直接受け取りたい場合には、ゆうちょ銀行、郵便局で受け取り可能です。
実際に受け取る還付金の額については、事前に算出した控除額を基にして計算していきます。計算式は「還付金=医療費控除額×所得税率」になり、具体例(総所得金額等が200万円以上、課税所得額500万円の場合)としては下記を参照してください。
・医療費控除額
(年間に支払った医療費の合計:35万円 ー 保険金などの補填金額:5万円) ー 10万円 = 医療費控除額:20万円
・還付金
医療費控除額:20万円 × 所得税率:20% = 還付金:4万円
セルフメディケーション税制も活用する
ここまでに紹介してきた医療費控除には、「セルフメディケーション税制」と呼ばれる特例があります。
同制度では、2017年1月1日~2026年12月31日までの期間に、納税者本人あるいは納税者と生計を一にする配偶者や親族が指定されている医薬品などを購入した際に、その年の特定一般用医薬品などの合計額が1万2,000円を超える部分の金額が控除されます。
ただし、セルフメディケーション税制と医療費控除を併用することはできません。また、セルフメディケーション税制を利用する場合には、予防接種や健康診断などの健康増進のための一定の取り組みを行なっている必要があります。
そのため、医療費控除を行うか、あるいはセルフメディケーション税制を利用するかは、個人事業主自身で決めていかなければなりません。より控除が大きい方を選べるように、ぜひ医療費控除とセルフメディケーション税制を比較してみてください。
出典:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
個人事業主で医療費が多い人は医療費控除を申請しよう
今回の記事では、個人事業主が行える控除の1つである「医療費控除」について紹介してきました。
医療費控除は、年間に支払った医療費の合計が10万円以上を超えた部分が対象となります。そのため、特に医療費が高額になっている個人事業主は申請しておくべきといえるでしょう。
確定申告で医療費控除を申請する際には、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
※初回公開日:2023年8月25日
監修:キャリテ編集部【株式会社エーティーエス】
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